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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)851号 判決 1982年9月28日

控訴人

西村真人

右訴訟代理人

新井清志

被控訴人

株式会社六郷ゴルフ倶楽部

右代表者代表取締役職務代行者

古山宏

右訴訟代理人

齋藤和雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第六九二九号株主総会決議、取締役会決議無効確認請求事件に関する控訴人及び被控訴人間の委任契約について、昭和五五年一〇月二五日にした解約は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に訂正、付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決七枚目裏七行目の「別件訴訟」を「商法二七一条一項但書の規定にいわゆる本案」に、同一〇行目から一一行目にかけての「否認する。仮にこの事実が認められるとしても、」を「認めるが、」に改める。

二  <証拠関係省略>

理由

一本件訴えの適否について

本件訴えは、控訴人及び被控訴会社間の本件委任契約の解約が無効であることの確認判決を求めるものであつて、これを文言に即して見れば、過去の法律行為の無効確認を求めるものであるが、実質的にはとりもなおさず本件委任契約の解約が無効であつて、現に控訴人と被控訴人間に本件委任契約関係が存在することの確認を求める趣旨に解されるから、控訴人が右確認を求めるについて法律上の利益を有する限り適法というべきところ、控訴人の主張する本件委任契約の解約の無効を被控訴会社が否定していることは、本件口頭弁論の経過から明らかである以上、控訴人は本件委任契約関係の存在の確認を求める趣旨において解約の無効確認を求める利益があるというべきである。この点について被控訴会社は次のように主張する。すなわち、控訴人は、本件委任契約を解約した被控訴人から右契約の存続を前提にしてこれに基づく善管注意義務違反を理由に責任を問われる余地はなく、また現に別件訴訟において控訴人は、控訴代理人を解任されたことを理由に裁判官から発言を禁じられて有効な訴訟活動をすることができないでいるから、費用前払請求権、費用償還請求権を取得することもあり得ない。ただ控訴人の報酬請求権が問題となり得るが、判決で本件委任契約の解約無効の確認を得てみても、右報酬請求権の存否が確定されるものではなく、ましてその金額が一義的に決まるものではないから、本件訴えはその利益を欠き不適法である、というのである。しかし仮に被控訴人主張のように、別件訴訟において裁判所が控訴人の訴訟代理権の存在を認めず、発言を禁じたとしても、真実本件委任契約関係が存続しているとすれば、控訴人は、右訴訟に必要な調査、資料蒐集等、法廷外において行うことが可能な訴訟活動の義務まで免責される筋合ではなく(被控訴人もまた控訴人が右のような訴訟活動を為し得るよう然るべき措置を講ずる信義則上の協力義務があるともいえよう。)、したがつて報酬請求権、費用前払請求権、費用償還請求権を取得する余地がない訳ではないから、これら諸権利の根拠である基本的法律関係の存在、委任契約解約の無効を確定する利益があることは明らかである。

右説示のとおりであるから、本件訴えはその利益があり、適法というべきである。

二請求の当否について

1  控訴人が東京弁護士会所属の弁護士で、昭和五四年九月ころ被控訴人の代表取締役山中茂から別件訴訟(株主総会決議等無効確認請求事件)の訴訟代理を委任され、同月一七日の第一回口頭弁論期日以降右訴訟を追行してきたこと、東京地方裁判所が同年一二月一〇日右訴訟を本案とする同裁判所昭和五四年(ヨ)第二〇三五号代表取締役等職務執行停止、同代行者選任等仮処分申請事件につき被控訴人の代表取締役山中茂の職務執行を停止し、その職務代行者に古山宏を選任する旨の仮処分命令を発したこと(別件仮処分)、職務代行者古山宏が昭和五五年一〇月二五日控訴人に対し、本件委任契約を解約する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。そこで、右委任契約の解約の無効をいう被控訴人の主張について判断する。

2(一)  控訴人は、「職務代行者古山は本件委任契約を解約する権限を有しないから、右解約の意思表示は無効である。」旨主張し、その論拠の一として、別件訴訟において被控訴人を代表して訴訟を追行する権限を有する者は代表取締役山中であり、職務代行者古山は権限を有しないことを挙げる(原判決事実摘示第二の一3(一)参照)。ところで、商法二〇七条所定の取締役の職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分(以下、「職務執行停止等仮処分」という。)により選任される職務代行者は、仮処分決定に別段の定めがある場合を除き、会社の常務に属する行為につき全般的な業務執行及び会社代表の権限を有するのであるから(同法二七一条一項)、先に被停止代表取締役が会社のためにした訴訟委任を解約することも、それが会社の常務と認められる限り、職務代行者においてこれを行いうる理である。しかし、もし控訴人主張のように職務執行停止処分によつて職務執行を停止された代表取締役がなお右仮処分の本案訴訟(株主総会決議無効もしくは取消の訴((商法二四七条、二五二条))等)を追行する権限、換言すれば、本案訴訟の追行につき会社を代表して行為する権限を有するとすれば、職務代表者に前記解約権限を認めることは、代表取締役が右仮処分によつて停止されない職務の遂行を職務代行者に認めることに帰し、許されない。以上の観点から、職務執行停止等仮処分がなされた場合、代表取締役と職務代行者のいずれが本案訴訟の追行権限を有する者であるかを検討する必要がある。

1(イ) 控訴人は、別件仮処分にかかわらず代表取締役山中が別件訴訟の追行権限を保有する理由の一つとして、仮処分の性質上、その効力は本案訴訟に及ばないことを主張する。

しかし、職務執行停止等仮処分は、本案訴訟において株主総会における取締役選任決議の効力の有無が問われ、右決議を前提とする代表取締役としての権限ないし地位が浮動的であることによつて会社の諸活動が不安定となり、株主、債権者その他の関係人が損害を被ることを避けるため、本案判決による確定的な解決がなされるまでの間当該代表取締役の権限を一応否定し、その職務執行を停止せしめるとともに職務代行者を選任するものであり、右措置は本案判決確定までの間における会社の業務執行及び代表権の行使に関する公権的措置であり、右仮処分決定に別段の定めがない以上、ある事項については代表取締役の権限として留保し、他の事項を職務代行者に行わせるというように当該権限の帰属につき二途を許すものではないと解するのが相当であるから、その効力は当然に代表取締役の本案訴訟の追行権限にも及ぶものというべきである。控訴人のいう仮処分の一般的性質たる付随性、仮定性、暫定性の故に、仮処分決定に表示された判断は本案訴訟における請求の当否に関する判断を拘束するという効力を有するものでないことは肯認すべきであるが、ことは本案訴訟の追行権限という手続面に関するものであつて、自ら別個の問題であり、仮処分の一般的性質は追行権限の有無につき前叙と別異に解すべき根拠とはなりえないものといわなければならない。

(ロ) 控訴人は、代表取締役山中が別件訴訟の追行権限を保有する理由の第二として、仮処分の効力はその性質、目的にかんがみ必要にして十分な最小限度の範囲にとどめられるべきであり、職務執行停止等仮処分の効力も会社に回復し難い損害を生ぜしめるおそれのある職務の執行を停止する限度にとどめられるべきであることを主張する。

しかし、前述のとおり、職務執行停止等仮処分は関係人の損害を避けるという目的を達するに必要な措置として代表取締役の権限を一応否定し、その職務執行を停止せしめるものであるが、仮処分裁判所が当該仮処分の必要性を認め、代表取締役の職務執行の停止を命じたときは、仮処分決定で別段の定めをしていない以上、停止は代表取締役の職務執行の全般に亘るものと解するのが相当である。これに反し、仮処分発令後に個々の職務執行についてそれが仮処分の必要性に照らし停止の範囲外にあり、代表取締役の権限として留保されたものかどうかを詮議することを許すときは、仮処分に期待される保全機能を著しく減殺するのみならず、社団関係の裡に収拾し難い事態を招来するおそれすらあるのであつて、かかる見解はとうてい採用することができない。

それ故、仮処分の性質を理由として代表取締役山中が別件訴訟の追行権限を保有する旨の控訴人の主張は失当とすべきである。

2 次に、控訴人は本案訴訟の適切な運営のためにも、会社を代表して本案訴訟を追行すべき者は被停止代表取締役であるとすべきであると主張する。

(イ) 一般に株主総会決議の無効もしくは取消の訴は、決議に法が定める一定の瑕疵が存する場合に、訴をもつてこれを主張させ、判決により決議の効力のないことを宣言するものであり、右訴訟における請求は、当該瑕疵に基づく決議の違法を主張するものであり、紛争の実体も決議の瑕疵をめぐる見解の対立そのものにほかならない。このことは決議が取締役の選任に関するものであつても同様である。なるほど、取締役選任の株主総会の決議及びこれに続く取締役会の代表取締役選任の決議に基づき代表取締役に就任した者の権限ないし地位が株主総会決議の無効もしくは取消により影響を受けることは免れないが、そうであるからといつて、株主総会決議の無効もしくは取消の訴を代表取締役の権限ないし地位の不存在の確定を請求するものであるとし、訴の実質的な相手方は当該代表取締役であるとみることは、右訴が社団における意思形成過程及び意思内容の瑕疵に基づく違法の確定を目的とする訴訟であるという特質を看過したものであるか、又はそれを不明瞭ならしめるものであるというべきである。そして、右訴訟を本案訴訟とする職務執行停止等仮処分が手続上被申請人として、会社のほかにその職務執行を停止されるべき取締役をも関与させているとしても、右仮処分の基盤に存する紛争が前示のような決議における瑕疵の存否をめぐるものであることには何ら変りがないのである。叙上と異る見地に立つて代表取締役が本案訴訟につき直接利害関係を有するものとし、それ故に代表取締役を本案訴訟の追行に当らせるのが妥当であるとする控訴人の主張は採用することができない。

(ロ) また、職務執行停止等仮処分によつて選任された職務代行者が公正にその職務を執行する義務を有すること控訴人主張のとおりであるが、職務代行者が本案訴訟において被告のために、事実関係を調査し、これに基づいて攻撃防禦方法を提出する等の訴訟活動を行うことは法律上はもとより、実際上も可能なことであり(その奏功するかどうかは職務代行者の人選と当人の努力に俟つ部分が少くない。)、客観的証拠とこれに裏付けられた事実関係が被告勝訴の結論を志向するものである場合、職務代行者がこれを主張することは何ら職務代行者の前示義務に抵触するものではない。もし相手方が職務代行者のそのような行動を積極的に過ぎる等論難することがあるとしても、全く的外れのことといわなければならない。

(ハ) 控訴人は、職務代行者をして本案訴訟を追行させることは訴訟における当事者衡平の原則に反する旨主張するが、右主張は職務代行者が本案訴訟において適切な訴訟活動をなしえないという見方を前提とするものであり、その失当であることは右(ロ)で説示したとおりである。

(ニ) 当裁判所は職務執行停止等仮処分の本案訴訟の判決が代表取締役の権限ないし地位に影響を与えることを否定するものではない(前記を(イ)参照)。そして、代表取締役が本案訴訟の結果により不当な影響を受けることを免れようとするならば、いわゆる共同訴訟的補助参加をすることができると解される(最高裁判所昭和四五年一月二二日第一小法廷判決、民集二四巻一号一頁参照)から、これにより代表取締役はその利益を擁護することができるのである。

3  以上のとおりであり、別件仮処分において別段の定めをしていないこと弁論の全趣旨により明らかな本件においては、別件訴訟の追行権限を有するのは職務代行者古山であつて、代表取締役山中ではないと解すべきである。

(二) 控訴人は、職務代行者古山が本件委任契約を解約する権限を有しない論拠として、右解約は商法二七一条一項本文の規定にいう「会社ノ常務ニ属セザル行為」に該当するから、職務代行者古山は当然には右の解約を行うことができないことを挙げる(原判決事実摘示第二の一3(二)参照)。

この点に関する判断は原判決理由説示三と同一であるから、これを引用する(但し、原判決一四枚目裏五行目の「具体的事実関係」から同一一行目の「のであるから、」までを「職務代行者古山が昭和五五年一〇月二四日本件委任契約の解約につき東京地方裁判所の許可を得たことは当事者間に争いがなく、同裁判所が商法二七一条一項但書の規定にいう「本案の管轄裁判所」であることは明らかであるから、」と訂正する。)。

3  上来説示したとおり職務代行者古山が本件委任契約の解約権限を有しないとする控訴人の主張は、その提示する論拠によつてはこれを肯認することができない。ところで、一般に訴訟委任においては、委任事務が委任者の権利関係の確定を目的とする訴訟の追行にかかるものであること、委任者と受任者の間に最高度の信認関係が存在することからすれば、民法六五一条の原則に従い委任者は何時でも委任を解約することができ、ただやむをえない事由がないにかかわらず訴訟代理人を解任した場合には報酬の支払を免れないという拘束を伴うにすぎないと解されるので(大審院昭和一三年六月一七日判決、法律新聞第四二九八号一四頁。日本弁護士連合会報酬等基準規程五条も本文のような考え方に立脚したものとみられる。)、訴訟委任が受任者の利益のためにも委任がなされた場合に該るかどうか、そうであるとした場合における解約の制限の有無については審究すべき限りではない(控訴人もこの点について何ら主張していない。)。

三結論

以上の次第であり、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(蕪山厳 真榮田哲 塩谷雄)

<参考・原審判決理由>

[理由]

第一 訴えの利益(確認の利益)について<省略>

第二 本案の請求について

一 請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二1 そこで、職務代行者古山が、本件委任契約を解約する権限を有するか否かにつき判断するに、右の権限の有無は、結局、代表取締役山中と職務代行者古山のいずれが別件訴訟を追行する権能を有すると解すべきかの問題の結論によつて決せられるべき性質のものであるから、まず、この点につき検討する。

商法二七〇条に規定する取締役の職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分は、本案訴訟となるべき取締役選任決議の無効・取消し等の訴えの判決が確定するまでの間、暫定的にその係争に係る会社機関たる取締役又は代表取締役の職務の執行を停止し、その職務代行者を選任して法人組織たる会社の諸活動の正常な継続を確保しようとするものであつて、そのねらいは、あくまで会社活動の保護にあるというべきである。このことは、右仮処分の本案訴訟自体がいずれもいわゆる社団法上の訴えと目されるべきものであつて、専ら会社ひいては株主の利益を図ることのみを目的とし、取締役等と会社との法律関係を成立させる前提となる会社内部における意思形成の瑕疵を争いの対象として会社を相手に提起されるものであることからも明らかである。

したがつて、右の仮処分により停止されるべき取締役等の職務の範囲については、取締役又は代表取締役の機関を構成する個人の利害を考慮に入れて決するものとする余地はないというべきであり、更に、瑕疵ある意思形成を前提として選任された取締役等を排除して会社の正当な業務運営を保全する右仮処分の趣旨からすれば、停止される職務の範囲は、究極的には被停止取締役又は被停止代表取締役の職務の全般に及ぶものと解するのが相当である。

法律は、右仮処分により停止されるべき職務の範囲を当該仮処分自体において別に定めることができるものとするが(商法二七一条一項参照。)、これは、一律的な職務の停止によりもたらされ得る不当を仮処分裁判所が個別に除去し得るものとして、当該事案の具体的妥当性を確保しようとしたものにほかならず、唯一この方法によつてのみ右被停止職務の範囲を制限することができるものと解すべきである。

したがつて、右仮処分による被停止職務の範囲は、当該仮処分決定自体において除外されていない限り、当然に本案訴訟における訴訟追行権能にまで及ぶものといわなければならない。

2 原告は、この点につき、仮処分の効力が仮定的、暫定的なものであること、本来、別件仮処分の効力は、被告に回復しがたい損害を与えるおそれのある職務執行を排除するためのものであるから必要にして十分な最小限度の範囲にとどめられるべきであることを論拠として、別件仮処分の効力の被停止職務の範囲は別件訴訟の追行権にまでは及ばない旨主張するが、前述のとおり、この仮処分が、原則として被停止取締役等の職務を全面的に停止するものとし、それが不当と目される場合には仮処分裁判所の判断によつてのみ停止されるべき職務の範囲を制限することができるものとして立法されていると解される以上、右主張を採用する余地はない。

3 更に、原告は、別件訴訟の運用上の実際の見地から、実質的利害関係を有する代表取締役山中をして訴訟追行に当たらせるべきであり、職務代行者古山は、その職責上被告のために十分なる攻撃防禦を尽くすことができないのであつて、代表取締役を右訴訟から排除したのでは訴訟における当事者衡平の原則に反する旨主張する。

しかし、別件訴訟は、前述したとおり会社の内部機関の意思決定の効力を争う訴えであつて、代表取締役山中がこの訴えの当事者でないことはもとより、直接訴訟追行に当たらなければその利益を擁護し得ないほどの利害関係を有するものでないことは、被停止代表取締役が被告適格を有せず、民事訴訟法七五条の規定により共同訴訟人として訴訟に参加することもできないと解されること(最高裁判所昭和三六年一一月二四日第二小法廷判決民集一五巻一〇号二五八三頁参照。)からも明らかである。仮に、代表取締役山中が別件訴訟の帰趨に利害関係を有するのであれば、自己の費用で右訴訟においていわゆる共同訴訟的補助参加をすることができると解されるから(最高裁判所昭和四五年一月二二日第一小法廷判決民集二四巻一号一頁参照。)、代表取締役山中の地位を前述のように解しても、その権利又は利益の擁護の手段が奪われるものではないというべきである。

また、職務代行者古山については、仮に代表取締役山中ほどには別件訴訟の紛争の事情を熟知していないとしても、会社関係者に訴訟資料収集につき協力を求めることにより適切な主張立証を尽くすことは困難とは考えられず、もともと会社としては、有効な決議により選任された代表取締役による会社運営が確保されればよいのであるから、争訟上の立場に固執して無理な訴訟追行をする必要はなく、公正かつ適切に訴訟を追行し得る地位にある職務代行者にこれを委ねて妨げないというべきである。

4 以上のとおりであり、別件仮処分において格別の制限が付されていないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、結局、別件訴訟においてその追行権を有するのは、別件仮処分によつて選任された職務代行者古山であつて、代表取締役山中はその追行権を有しないものと解するのが正当である。

三1 ところで、本件のごとき訴訟委任契約を解約する行為が商法二七一条一項本文の「会社ノ常務ニ属セザル行為」に該当するか否かについては、一般論としては検討の余地なしとしないが、本件においては、具体的事実関係に照らして右解約が本案訴訟の管轄裁判所の許可を要する行為に該当するものであつた点につき当事者双方に異論がなく、かつ、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件委任契約の解約については東京地方裁判所の許可を得ていることが認められる(この認定に反する証拠はない。)のであるから、右解約を有効と認めるのに支障はない。

2 原告は、この点について、右許可の裁判は、別件訴訟の担当裁判官でなければすることができず、別件仮処分をした裁判官(別件訴訟の担当裁判官とは別の裁判官であり、この裁判官が右許可の裁判をしたことは本件記録上明らかである。)はこれをすることができない旨主張するが、「本案ノ管轄裁判所」(商法二七一条一項)である東京地方裁判所があらかじめ定めた事務分配の定めに従つて特定した裁判官により許可の裁判をしたものである以上、何ら問題となる余地はなく、右主張は失当というほかない。

また、原告は、右許可の裁判は原告に対する告知を欠いているから無効である旨主張するが、右許可の裁判の告知を受けるべき者は、申立人その他の右裁判によりその権利に直接の影響を受ける者であると解すべきところ、原告は、許可の対象となつた法律行為がされる場合にその相手方となる者にすぎず、右告知を受けるべき者に該当しないことは明らかであるから、原告に対し右許可の裁判の告知がなされなかつたことをもつて、その効力が生じないものと解する余地はない。

四 したがつて、職務代行者古山が被告を代表してした本件委任契約の解約は、これを無効ということはできないというべきである。

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